法被の着方と粋に着こなすポイント
お祭りやイベントなどで、欠かせない存在となっている法被。
現代では、普段から法被を着るという人は少ないでしょう。
そのため、いざ法被を着ようとするとき、どうやって着たらいいのか迷ってしまうこともあるかと思います。
男女で着方は違うのか、どちらの衿を前にすべきなのか、帯はどこでどう結んだらいいのか。
今回はそんな疑問を解決すべく、法被の正しい着方について、詳しくご紹介していきたいと思います。
基本的なポイント
法被を正しく着るためには、いくつかのコツがあります。
まず、法被を着る上で基本的な3つのポイントをご紹介したいと思います。
その1「性別年齢問わず“右前”で」
法被を羽織ったら、背筋をぴんと伸ばしつつ全体を整えて、右から襟を重ねていきましょう。
和装用語で、右衿の上に左衿を重ねることを右前と言います。
法被を着るとき、この左衿が上に来るように重ねて着るというのが大切で、男性も女性も大人も子どもも法被を着る人全てに共通するルールとなっています。
しかし、この右前という言葉、実はちょっとわかりづらく、言葉だけを聞くと右の衿が前(上)にあるという捉え方もしてしまいそうになります。
いざというときに迷わないためにも、位置が「前」なのではなく、重ねる順番が「前」ということをしっかりと覚えておきましょう。
とは言え、どちらの衿が前でもそう変わらないのではないか、と思う人もいるかもしれません。確かにパッと見ただけでは、普段から和服に触れる機会のない人には、その違いはわかりにいのだと思います。過去には芸能人が左前で和服を着ている写真をSNSに載せて批判を受けているケースもありました。
なぜ、批判を受けてしまったのか。
それは、和服には右前にしなければならない理由があるからです。
和服の衿を左前で着るということは、死に装束という意味です。男女で着方が変わることもある洋服と違い、和服はどんなものでも男女共通で「右前」で着用するのがルール。
生きている間に和服を左前で着ることは絶対にありません。
死に装束で祭事に参加するなんてもってのほか。そんな恥ずかしいことにならないためにも、衿を重ねる順番には、注意が必要なのです。
その2「帯は腰骨の位置に巻く」
女性の場合、浴衣や着物の帯は胸下あたりに巻きます。しかし、浴衣や着物と違い、法被は女性でも腰骨あたりの高さの位置に帯を巻くのがポイントです。
法被を着るときに、あまり上の方に帯を巻いてしまうと見た目が格好悪くなってしまうからです。
帯は、性別や年齢に関わらず腰骨のあたりに巻くようにしましょう。
浴衣や着物では、帯の結び目は後ろに作りますが、法被は前であっても後ろであってもどちらでも問題ありません。結び目を前に作るときは、体の真ん中ではなく少し脇にずらすとより粋な印象に仕上がるのでオススメです。
帯の結び方にもいろいろな種類があり、代表的な「貝の口結び」、激しい動きにも耐えられる「神田結び」、結び目が邪魔になりにくい「片ばさみ」、伝統的な「一文字結び」などがあります。用途に応じて、帯の結び方を変えるなどして、法被の着こなしを楽しんでみてはいかがでしょうか。
その3「懐にゆとりをもたせる」
法被を着ているとき、おそらくお祭りやイベントで動き回る機会が多いはずです。
法被とは、昔は職人たちが作業着として着ていたものですから、正しく着用することができれば、動きやすいように作られています。
「ゆとり」とは、動き回っていても着崩れしにくくするために、あらかじめ適度に見ごろを緩ませておくことです。
慌ただしいお祭りの最中に何度も着崩れを直す余裕はないでしょうから、これもとても大切なポイントです。
ゆとりを作るには、帯を結んだ後に、両衿を少し上に引っ張り、懐のあたりを緩ませます。その後、同じように背中の生地を引っ張り、前後のバランスを見ながら整えます。
ここで注意なのが、ゆとりを作りすぎるとだらしなく見えてしまうということ。
一気に生地を引っ張ってしまうと、戻すのは難しいため、全体のバランスを見ながら、慌てず少しずつ引き出していくのがコツです。
粋な着こなし
法被を正しく着こなせるようになったら、より粋な着こなしを目指してみてはいかがでしょうか。
頭を飾る鉢巻き、法被の中に着るインナーとボトムス、履物など。
簡単に着ることのできるシンプルな法被は、少しこだわるだけでも、よりこなれた印象になり、自分らしい着こなしに変えることができます。
鉢巻き(はちまき)
法被を着るとき定番なのが、鉢巻きを使ったコーディネート。
鉢巻きをつけることで、グッとお祭りらしさが上がります。
そんな鉢巻きですが、伝統的なものから、若者に人気な流行のものまで、様々な種類があります。
男性に人気な「ねじり鉢巻き(ねじりはちまき)」
特に男性に人気なのが、手ぬぐいを使った「ねじり鉢巻き(ねじりはちまき)」というもの。
必要なのは、手ぬぐい1本だけというシンプルかつリーズナブルなのが特徴です。
細長く折り畳んだものをくるくると固くなるまでねじって、頭に巻きつけます。
巻き方にも種類があり、鉢巻きの中心をおでこに当てて巻きつけ、頭の後ろで結ぶスタイルが一般的ですが、他にも結び目がおでこに来る「喧嘩結び」や結び目がおにぎりの形になる「元気結び」など、いろいろな結び方があるので、ぜひ試してみてください。
女性に人気な「ねじり棒鉢巻き」
対して、女性に人気なのが、「ねじり棒鉢巻き」というもの。
従来の鉢巻きのイメージを覆すような、お洒落な鉢巻きです。
先ほどの手ぬぐいを使ったねじり鉢巻きと比べて、細く、紐状になっているのが特徴です。
ねじり棒は、何色か組み合わせて編み込んであるものが多く、見た目もカラフルで華やかです。
細くて長い形状であり、適度に固く、形の作りやすい素材であるため、いろんな結び方で頭を飾ることができるのも魅力の一つ。
お花の形を模した「花結び」は特に人気で、法被の着こなしがより女性らしい洗練された印象になります。
法被の中に着るもの
法被は貸してもらえたり、決められたものを買ったりすることが多いと思いますが、その法被の中に着るものは自分で用意する必要があります。
初めてお祭りに参加する場合は、法被の中に何を着たらいいのかわからず、困っている人も多いのではないでしょうか。
実は、これには正解がありません。
法被のデザインがお祭りによって異なるように、法被の中に着るものもお祭りによって異なります。
ふんどしを着るお祭りがあったり、股引を着るお祭りがあったり、法被の中に何を着るかはお祭りによって様々であるため、どれが正解というものはありません。
そのため、参加するお祭りの主催者に確認するほかないのです。
一般的に法被には、インナーは「鯉口シャツ」や「ダボシャツ」と呼ばれるシャツを着ることが定番とされています。
体にぴったりとしたシルエットの鯉口シャツとゆったりとしているダボシャツ。
色はシンプルな白や黒が多いですが、最近ではカラーのものや柄のあるものも増えてきて、個性を出すこともできるようになっています。
名前やロゴを入れてお揃いにすることもできるので、祭りの一体感を高める効果もありそうです。
これらのインナーに合わせて履きたいボトムスは、「股引」や「ダボパンツ」と呼ばれるもの。
股引は、ぴったりとしていて足首に向かって細くなっていくシルエットなのが特徴です。対して、ダボパンツは、ダボシャツと同じように全体的にゆったりとしています。
どれも伝統的なお祭りの衣装として定番のものです。好みのスタイルに合わせて選んでみてください。
法被の中に着るものに特に指定がなく、あまり予算をかけずコーディネートしたい場合、基本的には普段着で問題ありません。
カジュアルなお祭りやイベントの場合は、インナーにTシャツやタンクトップ、ボトムスはジーンズやスウェットなどの動きやすい服装を合わせるのがおすすめです。
インナーにTシャツを着る場合であれば、サイズが身体に合っていて、しっかりと首元が詰まったものなどを選ぶと良いでしょう。
流行りのオーバーサイズのTシャツや首元が開いたデザインのTシャツは、法被と合わせるとだらしなく見えてしまうことがあるためです。
日本のお祭りの本来の目的は「神様に感謝する」ことです。インナーであってもボトムスであっても、あまり過度に露出をするものはふさわしくありません。
動きやすく露出を控えた服装を選ぶようにしましょう。
履物
「おしゃれは足元から」なんて言葉もあるように、コーディネートにおいて履物選びはとても大切です。
法被を着るときも履物までこだわって選ぶことで、よりこなれた印象になり、お祭り気分も上がること間違いありません。
法被を着るときの履物の代表的なものに、地下足袋や草履、雪駄などがあります。
地下足袋(じかたび)とは、ゴム底の付いた足袋のことで、通常の足袋とは違ってそのまま外で履くことができます。あまり馴染みがないかもしれませんが、草履や雪駄よりも歩きやすいため、法被に合わせる最も定番の履物とも言われています。
足首部分は金具で固定するので動きやすく脱げにくいのが特徴です。
足の指が親指と残りの指の二股に分かれているので、つま先に力が入りやすく、田植えをする農家の方や鳶職の方が仕事用に使っているのを見たことがある人もいるのではないでしょうか。
ただし、お祭り用と仕事用の地下足袋は機能が異なるため、購入する際は注意するようにしましょう。
この地下足袋ですが、短いタイプと長いタイプがあります。
目安として、短いタイプでくるぶしが隠れる長さ、長いタイプでふくらはぎが隠れる長さです。
短いタイプを履くとき、ボトムスの裾は地下足袋の上に出します。無理に裾を地下足袋の中に入れる必要はありません。
反対に、長いタイプの地下足袋を履くときは、裾は地下足袋の中に入れて履きます。
どちらのタイプを選ぶべきかについては、参加するお祭りによって決められていることがあるので、主催者に聞いてみてください。
特に指定がない場合、最近では短いタイプの地下足袋は若い人に好まれ、長いタイプの地下足袋は中年以降の人に好まれている傾向があるようです。
まとめ
法被の着方は、基本的なポイントさえ押さえることができれば、決して難しいものではありません。
- その1「性別年齢問わず“右前”で」
- その2「帯は腰骨の位置に巻く」
- その3「懐にゆとりをもたせる」
ぜひこれらの3つのコツを覚えて、試してみてください。
また、正しく着ることで、時間が経っても着崩れしにくくなります。
基本的な着方を覚えたら、次は粋な着こなしを目指して、細部にもこだわってみましょう。
簡単に着ることのできるシンプルな法被だからこそ、アイテムを増やしたり、自分好みのものに変えたりすることで、よりこなれた印象になり、個性も演出することができます。
法被ファクトリー編集部
昭和29年創業、名古屋の捺染工場が運営する法被ファクトリー。
法被のご購入をご検討中の方に向けて、法被にまつわる情報を発信しています。